新しい同位体混合モデルの開発


 対象生物(Mixture)とその栄養源(Source)の同位体比値を比較して、各栄養源が対象生物に寄与した割合を推定する統計解析手法は、同位体混合モデル(Mixing model)と呼ばれています。混合モデルは、同位体データを客観的に解釈する上で重要な手法です。

 

 2008年にMoore and Semmensによって、多数のパラメーターのばらつきを組み込むことができるBayesian mixing modelが提案されました。Bayesian mixing modelは非常に汎用性が高いため、同位体研究において混合モデルが利用される機会が著しく増加しました。

 

 一方で、混合モデルが乱用されるケースが多く見られるようになりました。例えば、対象生物とその栄養源の同位体比値の分布が右図のような状況では、本来は正確な栄養源の寄与率を推定することはできません。にもかかわらず、混合モデルを実行して、出力された結果の最頻値などを用いて議論を組み立ててしまう研究がよく見られます。

 

 このような混合モデルの乱用を減らすために、新しい同位体混合モデルの開発を共同研究で進めています。開発中のモデルでは、出力される確率分布の中で統計的に信頼できる範囲(≠信頼区間)を示すことで、グループや個体間での食性の差に関する議論がしやすくなっています。

 

 現状では、Bayesian mixing modelで異なるグループや個体間で食性の比較をする場合は、95%信頼区間のオーバーラップの有無に基づいて議論を組み立てることを推奨します。確率分布が明らかに重なっているにもかかわらず最頻値などを使って結論を出したり、二次解析を行うことは、分析結果の誤った解釈に繋がる可能性が高いです。

 

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魚類の骨の分析から、軽元素同位体比の履歴情報を得る手法の開発


魚類の耳石では、一定期間ごとに年輪が形成されることが知られており、その年輪ごとに酸素やストロンチウムの安定同位体比を測定することで、成長に伴う同位体比の変動(履歴)を復元できます。この手法は、海洋学・水産学・生態学の分野で広く応用されてきました。しかし、耳石は主成分が炭酸カルシウムであるため、窒素や有機炭素の安定同位体比が測定できないなど、分析可能な同位体核種が限られるという問題がありました。

 

 この研究では、魚類の脊椎骨を使うことで、窒素やイオウといった耳石では分析できなかった元素の同位体比履歴を復元する手法の開発を行いました。降海型のサクラマスを対象とした分析では、成魚の骨から若魚期までの生息地である河川由来のイオウ安定同位体を検出することに成功しました。


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硬骨魚類の脊椎骨の切片分析による、軽元素同位体比の履歴復元手法の開発
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哺乳類の骨の分析から、同位体比の履歴情報を得る手法の開発